シチリアは、伝統菓子の宝庫。
昨今、日本でも「カンノーリ」や「カッサータ・シチリアーナ」が知られていますが、まだまだ知られていない伝統菓子も多数あります。
「フルッタ・マルトラーナ」も、シチリアを代表する伝統菓子のひとつ。
パレルモ発祥のシチリア伝統菓子「フルッタ・マルトラーナ」
「フルッタ・マルトラーナ」は、シチリア名産のアーモンドと蜂蜜をベースに、果物を模って作る可愛らしいお菓子。
「死者の日」のお菓子としても知られます(後述)が、見栄え良く、日持ちもするため、お菓子屋さんはもちろん、お土産屋さんにも年間通して並んでいます。
シチリアを訪れたことがある人は、見かけたがことがあるかもしれませんね!
▼死人の日とは、11月2日 万霊節 Festa dei morti のこと。全ての死者の霊を供養する日で、日本のお盆のようなもの。
フルッタ・マルトラーナ、誕生の物語
そんな「フルッタ・マルトラーナ」は、パレルモの旧市街に建つ世界遺産マルトラーナ教会に、かつて併設していたマルトラーナ修道院で生まれました。
シチリア王国時代、1143年に、シチリア王の右腕アンティオキアのゲオルギオスが建設したマルトラーナ教会。1194年に、貴族エロイザ・マルトラーナによってベネディクト派の修道院が併設されました。
さてさて、誕生ストーリーは?
バラが咲き乱れ、レモンやマンダリンが実る美しいマルトラーナ修道院の庭園回廊は、街の評判になっていました。
10月末のある日。ノルマン王宮に暮らす王様と枢機卿が、「噂の庭を見たい」と突然訪問することになりました。
しかし、時は秋。花の季節は終わり、実り前の時期で、残念ながら庭は寂しい状態...。
慌てた修道女たちでしたが、機転を効かせ、アーモンドと蜂蜜で作った甘い生地を使って、フルーツ型のお菓子を作ることを思いつきます。
キレイに着色し、本物さながらに作り上げた”お菓子のフルーツ”を木々に飾り、王様御一行を迎えたのです。
そして、訪問日。庭を見た王様は、「街で唯一、たわわに実がなる庭だ!」と歓喜し、美味しそうなオレンジをひとつ、手に取り皮を向こうと...。
そこで初めてお菓子だと気づき、笑いながら修道女たちのアイデアを褒め称えたそうです。
偽物ではあるけれど、美味しいお菓子のおもてなしを受け、王様は大満足。春に、本物の満開の花々と豊かな実りを楽しみに、再訪を約束し、修道女たちもホッとひと安心したのでした。
そうして幸せなこのお菓子は、マルトラーナ修道院の名前で、パレルモの街に広まっていったのです。
参考:Maria Oliveri "I segreti del Chiostro"
ビザンチン、アラブ、西洋の異文化融合を果たした12世紀のシチリア王国時代の、なんとも平和で寛容な時代背景が伺えるストーリーでもありますね!
パスタ・レアーレ”王様の生地”と修道院伝来のレシピ
「フルッタ・マルトラーナ」で使うアーモンドと蜂蜜で作った生地は、「パスタ・レアーレ(王様の生地)」と呼ばれます。
これもこの訪問秘話がきっかけ。王様のために考案したことから、そう呼ばれるようになったそうです。
パスクアの羊のお菓子など、シチリアの伝統菓子に欠かせない基本素材パスタ・レアーレ。伝統的なパレルモの家庭では、これらの伝統菓子をお家でも作ります。
マルトラーナ修道院に伝わる元祖のレシピ
パレルモでは、口頭伝承されてきた修道院のレシピを発掘するプロジェクトが進行中。
マルトラーナ修道院の発掘レシピがこちらです。
修道院のフルッタマルトラーナ
<材料>
・アーモンド 1kg分
・ビターアーモンド 4つ
・砂糖 800g
・水 600ml
・バニラ 適宜
・食用カラー 適宜
【作り方】
① 沸騰したお湯でアーモンドを茹で渋皮をむき、細かいみじん切りにする。
② 水を入れた鍋に砂糖を溶かし、火にかけ沸騰させる。常にかき混ぜる。
③ ②に粘りが出てきたら火を止め、①を一気に加え、素早くよく混ぜ合わせる。
④ 台に広げ冷ましたら、木型か手で好きなフルーツの形にする。マンダリン、レモン、栗、洋梨などなど。
⑤ 食用カラーで色をつけ、アラビアガムでツヤを出したら、出来上がり。
...作るのも良いですが、やっぱり本場で食べてみたい?!
シチリア、特にパレルモを訪れたら、老舗のパスティチェリアで、ぜひ「フルッタ・マルトラーナ」を見つけてください♪