”イタリアのお盆”に食べるフルッタマルトラーナ
シチリアは、伝統菓子の宝庫。カンノーリやカッサータ・シチリアーナが良く知られていますが、まだまだ知られていないお菓子もあります。
本物さながらのフルーツを模った『フルッタマルトラーナ』もそのひとつ。

州都パレルモの修道院が発祥の伝統のお菓子で、ご当地では何百年もの間、親しまれてきました。お菓子屋さんの他、シチリアの空港やお土産屋さんにも並ぶので、見たことがある人も多いかもしれませんね!

フルッタマルトラーナは、また”死人の日”のお菓子としても知られています。死人の日とは、11月2日 死人の日(万霊節)Festa dei mortiーすべての死者の魂を祈る日のこと。ハロウィンの翌々日で、キリスト教の伝統を重んじるシチリアでは、ハロウィンより重視されている日です。
この日は、先祖の供養をするために家族でお墓詣りをする習慣があり、それはまるで日本のお盆。本物さながらにフルーツを模ったフルッタマルトラーナを添えると……ますますお盆感が漂います(笑)。
フルッタマルトラーナ、誕生の物語
フルッタマルトラーナは、パレルモの旧市街に建つ”マルトラーナ教会(サンタ・マリア・デル・アミラリオ-海軍総督の生母マリア教会)”に併設したマルトラーナ修道院で誕生しました。

マルトラーナ教会は、1143年に設立されたアラブ・ノルマン様式の美しい教会で、世界遺産にもなっています。追って1194年に修道院が設立。パレルモで3番目になるベネディクト派の修道院として、貴族エロイザ・マルトラーナによって創設されました。
このマルトラーナ修道院には、バラや季節の花々、レモンやマンダリンが実る茂る美しい庭園回廊があり、パレルモの街では評判になっていました。10月末のある日、パレルモの王宮に暮らす王様と枢機卿が「噂の庭を見たい」と突然訪問することになったのですが、時は秋。残念ながら庭は寂しい様子…。
慌てた修道女たちは、アーモンドと蜂蜜で作った甘い生地をフルーツに型取り、彩色。本物さながらのお菓子のフルーツを作って飾り、王様を迎えたのです。
訪問当日、庭を見た王様は「街で唯一、たわわに実がなる庭だ」と歓喜し、美味しそうなオレンジをひとつ手に取ると口に運びました。そして、笑いながら修道女たちのアイデアを褒め称えたそうです。
偽物ではあるけれど美味しいお菓子のおもてなしを受けた王様は大満足し、春に本物の満開の花々と豊かな実りを楽しみに、再訪を約束してくれました。修道女たちもホッとひと安心。
幸せなこのお菓子はマルトラーナ修道院の名前で、街に広まっていったのでした。
参考:Maria Oliveri "I segreti del Chiostro"
シチリアが統一され、シチリア王国が建国された直後、ビザンチン、アラブ、カトリックの見事な異文化融合を果たし、12世紀ルネッサンスと呼ばれた文化が華やいだ時代の話ですが、なんとも平和でのどかで豊かな時代背景が伺えますね。

ちなみに、アーモンドと蜂蜜で作った生地をシチリアでは”パスタ・レアーレ(王様の生地)”と呼びますが、この訪問の際に、王様のために作ったことから、そう呼ばれるようになりました。
パスタ・レアーレはフルッタマルトラーナやパスクアの羊のお菓子など、伝統シチリア菓子のベースになるもので、パスタ・ディ・マンドルラとも呼ばれます。夏には水に溶かしてアーモンドミルクを作ったりもします。
修道院発!フルッタマルトラーナのレシピ
マルトラーナ修道院のフルッタマルトラーナのレシピは、他の修道院発のお菓子レシピがそうであるように、口伝えで伝えられてきました。
パレルモの修道院系伝統菓子の専門店が発掘した元祖のレシピをご紹介します
修道院のフルッタマルトラーナ レシピ
・アーモンド 1kg
・ビターアーモンド 4粒
・砂糖 800g
・水 600ml
・バニラ 適宜
【作り方】
① 沸騰したお湯でアーモンドを茹で渋皮をむき、みじん切りにする。
② 水を入れた鍋に砂糖を溶かし、火にかけ沸騰させる。常にかき混ぜる。
③ ②に粘りが出てきたら火を止め、①を一気に加え、素早くよく混ぜ合わせる。
④ 台に広げ冷ましたら、木型か手で好きなフルーツの形にする。
マンダリン、レモン、栗、洋梨などなど。
⑤ 食用カラーで色をつけ、アラビアガムでツヤを出して出来上がり。

パレルモのパスティチェリアでは、自慢のフルッタマルトラーナを作っています。食べくらべてもしてみたい…ところですが、極甘!注意が必要です(笑)。お砂糖たっぷり、保存も効くのでお土産にもぴったりです♪